斎藤はどこへ行った

ベリベリエモーショナルOL2年目(元大衆大学へっぽこ心理学部生)

目黒線でナンパしてきた男の人の心を解体新書しようとした話

 

 
祝日の早朝の車内、人はまばら。
最寄り駅から車両に乗り込んでいた私は、端っこの席で来月末のtoeicのためにダラダラと単語帳を見ていた。
私の座席の列には誰も座ってなくて、しばらく気楽にガタンガタン。こりゃー寝るぞと思った矢先、どっかの駅で「寒みーな」とデカめの独り言をつぶやきながら、人が隣に座ってきた。
 
その独り言が、まーわりと結構デカめで。
 
私は、高校のクラスにいた、イケメン高身長&サッカー部という恵まれたスペックを持ちながらも独り言の多さとナルシスト傾向の強さから、男子たちからややハブられ、女子からは遠巻きにされていた田島くん(仮名)のことを唐突に思い出した。そして、あーそういえば元気してるかなあと感慨に浸っていた。
 
「寒いっすね」
 
だから、隣からそう話しかけられて、驚いた。「ん???あれ?田島くん??!大学では上手くいったの??!!!」と脳内はてんやわんや大混乱し、慌てて隣を向く。
 
そこで目があったのは3代目のがんちゃん似イケメンの田島くんじゃなくて、宮川大輔を綺麗にした感じのおにーさんだった。まあ当たり前だ。ちなみに、この大ちゃん似おにーさん、酒臭かった。
 
「寒いですね」
 
あーこれ酔っ払いだわ、絡まれたわと直感。反射的に返答をした。
 
このおにーさん、足元は石原純一よろしく素足で、半端丈パンツに高そうなとんがった革靴という出で立ちだった。靴擦れの目立つ足首がもろ露出。だから寒いんだよ大輔。
 
「おねーさんそれ☆○*¥っすか?」
「え??」
「だから、それ、とーいっくすか?英語勉強してるんですか?」
 
おにーさんの声は呂律が回ってなくて聞き取りにくい。でも彼はどうやら私の手にある単語帳に関心を示したようだった。
 
「はい。そうですね」
「なんで?なんでとーいっくやるの?」
「えーー?まぁ、自分の英語力を試してみたいからですかね」
「ふーん。おねーさん大学生だよね?慶応?」(沿線に日吉・三田両キャンパスがある)
「いや、そんなわけないです」
 
 
本当は就活の履歴書にかければいいな〜と思ってのことだったけど、なんか就活の話して年齢が分かるのがだるかったから、話を濁した。し、大学も濁した。
 
「今度お茶しよーよおねーさん」とLINEをきかれた。ここで、「あ、これってナンパなんだ?私ナンパされているんだ」と思った。20年生きてきて、人生数えるほどしかナンパをされたことがない。最寄りの駅の高架下でバングラデシュ人に「オネーサンカワイネーso beautiful.coffe飲まない?」って可愛い笑顔で握手をされた記念すべき初ナンパ以来、半年ぶり2回目のナンパであった。
 
ああーおにーさんのID聞くんで、あとから友達申請します〜っつてかわした。「まーそういってさーみんな逃げるんだからー。別に良いんだよ俺はさ」と言われる。おにーさん慣れてる。
その口ぶりから色々な人に当たってくだけていそうなおにーさんの姿が浮かんできて、あーナンパも飛び込み営業もそんな変わんないんだなぁとか思ったりした。ある程度自分の中の「何か」を捨てないと取り組めない作業。自意識過剰、臆病な自尊心、尊大な羞恥心………果たして私に出来るだろうか。ふと思う。
 
「てかさ、とーいっく受けるんだ。でもさーそれってあれなんだよね、日本人と韓国人向けに作られてるテストなんだよね〜」
「はぁ」
「今、酒臭い奴に絡まれてめんどくせーなーって思ってる?」
「いやぁ、特に」
 
ちょくちょくこういう風に、おにーさんはこちらの心を探ろうとする態度を提示してきた。「今こういう風に思ってるでしょ」「こう考えてるでしょ」
心理学部生の端くれだから、この提示の意図するところはなんとなくわかる。
多分、おにーさんは俺はお前の心を把握してんだよと見せかけることで、この会話の主導権を握ってコントロールをしようと思ってる。そんな気がした。その推測を裏付けるように、おにーさんは一方的に自分を大きく見せるような話を饒舌にし始めた。
 
「俺は、今度さ、会社から#@☆♪(後から調べた。おそらくIELTSと言っていたと思われる)受けるように言われてんだよね。ほらあのさーTOEFLみたいなもんでさー。言っちゃえばさ、とーいっくとは全然レベルが違うわけよ。」
TOEFLは知ってます。すごいテストなんですね。TOEFLとかと一緒ってことは、スピーキングとかもあるんですよね?大変そう」
「英語なんてたいしたことないよーはなせるはなせる。俺はさ〜」
 
ここから英語話せる俺エピソードみたいなものを話される。すげー長かった。割愛。
 
「なんか話しててわかるわーおねーさん意志が強いね。自分を持ってる」
「あ、そーですか。ありがとうございます。どんなところでそう思いました?」
「俺も割と自分持ってるって言われんだけどさ」
「あーーー(笑)はい。(…….スルーかよ)」
「今仕事辞めてさ、独立しようと思ってんだよね。」
「へーそうなんですね。てか、社会人の方だったんですね。」
「学生に見えたー?」(おにーさん結構ご機嫌に)
「えーおいくつですか?」(←とりあえず聞いた)
「25」
「えーーーーーーーー」(取り敢えず言っておいた)
「見えない?」
「びっくりしました(社交辞令)」
 
ここからおにーさんは今働いているところ(法律関係)の話と年収の話(年収500万)と新規で事業を立ち上げようとしている話をしてきた。ファスティング事業を立ち上げたいらしい。ファスティングって初耳だったので尋ねてみると、酵素?を使った断食のことを指すみたいだった。断食=ラマダンって認識だったので驚く。なんなんだろう。おしゃれヘルシーファッション断食がファスティングで、ガチ勢がラマダン?どちらにしろお腹減っても何も食べないなんて、複雑怪奇だ。
 
そんなことを思いながら。なんか新事業の話は特に聞いて欲しそうだったので、うんうんと深掘りして話半分に聞く。ファスティングの良さについて熱く語られる。最初は辛いけど、ある一定の日を超えると頭がめちゃめちゃ冴えて気持ちいいらしい。え、それって普通にヤバくない??大丈夫なの?
車窓に多摩川が映る。電車がガタンゴトンと多摩川を越える。
なんか、自身でもファスティングするらしい。14日間。やべーな。普通にガチ勢じゃん。
 
「俺の身の回りのやつはさ、皆頭良くて優秀で稼いでるわけ。だからさ、俺もこーんなね、500万ぽっちで使われるんじゃなくて、何かデッカいことしたいわけよ。バカなりに何かやってこうって思ってさ、それで、このね、ファスティングをってわけ」
「(だんだん酔いが覚めてきたのかな、饒舌になってきた)でも、20代で500万って今でも十分すごいですよ。比べてる周りの方がすごすぎるだけじゃないんですか?」
 
話を締めつつ、おにーさんは急に自分を卑下しだしたので、とっさにフォローした。私の父は、私が中学に上がった頃から無職&アル中で、その後病気で結局死んだので、20代で500万稼ぐとか十分すごいじゃんっていうのは、心からの賛辞の言葉であった。労働is尊い。
 
「いやー確かにね。この歳で俺くらいの給料もらってる奴なんて全体の☆♪%だって、わかってるけどね。」
「………………(いやーーーー切り替え早!てかあんま気にしてないんやないかーーい!自虐風自慢だったんやないかーーい)」
「やっぱなんだかんだ俺の周りはみんな優秀なのよ。なのに俺なんか、偏差値65だからさ。私立☆☆☆☆なのよ、出身。知ってる?中高一貫のとこ」
「わーー知ってまーすすごーい」(知らない)
 
こうなってくると茶番だった。もういっそこの電車を降りてしまって次の電車を待とうにも、そうすると目的の時間に間に合わない。だるすぎる。
ならば私はここで、このクソくだらないなんの生産性もない会話に何か目的や使命を設定しようと思った。そうじゃなきゃやってらんない。電車に乗る数十分の精神的健康をゴミ箱に捨てたくない。ただ、酔っ払いナンパ師のクソつまんねー話を聞いてなんだったんだよもーとモヤモヤするより、この会話を通じて何か発見や新たな学びを得たかった。
 
ここでふと思った。ナンパ師の心を解体新書してみたら、面白いんじゃなかろうか。
 
 
 
 
 
心を解体新書と一口に言っても、その切り口は様々ある。とりあえず様子を見る質問でジャブを入れてから様子を見よう、そう思った。
 
 
 
 
 
「昨晩はお酒、飲んだみたいですけど、どこで飲んだんですか?」
 
まず、手近にした行動から探りを入れようと聞いてみた。人の価値観は行動に現れる、はず。「どーせ若い女or綺麗な若い女と昨夜もよろしくやってたんだろう。そっから好みの女の傾向でも探って、手始めにナンパ師がどーやって女と出会うのかでも聞き出せたら」と踏んでいた。
 
「あれだよー〇〇(沿線某駅)でねーおねーさんと飲んでた。35歳。結構よかった。俺の将来の展望についてきてくれそうな感じで。」
 
正直衝撃だった。それは、えーーめっちゃ年上攻めんな、10個上?!!ってのがひとつ。次にブサイク+低身長+性悪+ナンパマスターでサークルの後輩女子を格安キャバ嬢のように扱ってたくせに超絶人望はあった大学の男の先輩×2(現在大手商社・銀行に勤務)もこぞって年上好きだったなぁ、この人もなのか、、ってのがひとつ。
(彼らのことは後々文章に起こしたいと思う。)
 
そして、おにーさんの声のトーンが存外に真面目なものだったっていう点がひとつ。おにーさんの目に浮かぶこれまでの軽薄なものとは違った何かを、私は感じ取った。
 
ここはもっと深く聞き取りをしたほうが良いポイントなのでは思った。この人はなぜ35歳の女性をナンパしたのか。いや、そもそもおにーさん含めナンパ師はなぜナンパをするのか。女とやりたかったら風俗に行けば済ませられるのに、なぜナンパするのか。ナンパをする際、どんな相手とのマッチングを求めるのか。そして、私の出会ってきたナンパ師はなぜこぞって年上が好きなのか。
 
これらの根底にあるテーマ「ナンパ師はナンパに何をもとめる傾向があるのか」を今回の被ナンパ兼世間話兼インタビューで解明の糸口を探してみたいと思った。お口の形勢逆転、今度はこちらがグイグイだ。まず、このおにーさんその35歳の女性のどのような点に魅力・マッチングを感じたのかを聞き取り調査したいと考えた。おにーさんの「理想の良い女」を探り、ゆくゆくはその女を手に入れて「俺が」どうなりたいのかの解明まで掘り下げていければとワクワクドキがムネムネだった。
 
「その展望についてきてくれる感じっていうのは、具体的にどういうことですか?」
「えー。俺はさ、ゆくゆくは海外に行くっていう方向性があるわけ」
「はい」
「そーゆーときにさ、英語もろくに話せないのにただ俺の言いなりになってついてくるだけ、あるいはそんなところまで行かないでって止めてくる人は無しなんだよね」
「おんぶに抱っこでは困る、と。つまりある程度の意思だったり展望、あと向こうでで活動できる語学力をを女性自身にも持ってほしい、ってことで合ってますか?」
「うーんまぁ、そんな感じかな。頼られてもさ、向こうで俺がどうなるかなんて誰にもわからないんだしね」
「その、これは言える範囲でいいんですが、昨晩の女性のどういう態度だったりで「この人は大丈夫だ」みたいに思ったんですか。気になる」
「その人もふつーにバリキャリしてる人でさ。上昇志向が強いのが会話の端々で伝わってきた。」
「なるほど。」
「てか、おねーさんいい匂いするね」
「はぁ、そーですか(話はぐらかされたー)」
 
 
おにーさんはズケズケ言ってくるのが気に食わなかったのか、警戒をしてしまったのか、そこから話を煙に巻いてしまい聞き取りは断念せざるをえなかった。無念。
 
おねーさん彼氏は?いないの?どれくらいいないの?クリスマスはどうするの?肌綺麗だね。スタイルいいね。コートの色お揃いだね。
そこからのテンプレートマシンガンを鉄仮面の笑みと定型あいづちで切り抜け、気がつくと電車は私の降りる駅に到着していた。私は試合に負けた気分だった。
 
「じゃ、どーも」
「どーせ俺のことなんて忘れると思うけど、元気でね。おねーさんお持ち帰りしたかったわ」
 
本当にこの平成27年のご時世に「お持ち帰りしたい」なんて言葉を使う人いるんだ、と思いつつ私は適当に即答した。
 
「おにーさんのことは忘れると思いますけど、ファスティングのことは多分忘れないです」
 
 
 
ごめん、おにーさん嘘でした。いえーい、みてる?ちゃんとブログネタにしたよ。