斎藤はどこへ行った

ベリベリエモーショナルOL一年目(元大衆大学へっぽこ心理学部生)

気になるMMとわたし

最初に弁明させてもらう。今回出てくるMMは「わたしの周囲にいる誰か特定の一人」を指しているのではなくて、わたしが就活中~就職後に出会った「たくさんのふしぎなおとなたち」を統合して創り上げた架空の存在である。(あと関西弁に関してはおぼろげな記憶をたどってかいてるのでほんとに自信ない。関西の人ごめんね。)

 

 

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社長面接で場面緘黙かましたけど、なんかわたしを拾ってくれた弊社で働き始めて、もう一か月半になる。

 

選考中から薄々感づいていたことだけれど、弊社は「とてもおとなしい人」が多い。みなさん、毎朝毎朝ささやくような声で挨拶をしながら出勤し、有線ランでつながれた古ーいPCにて拙い手つきでExcelカタカタして、ひたすらに得意先にFAXを送り、得意先から来るFAXを受け取り自社の帳簿システムにカタカタ入力をして、またFAXを返し、たくさんかかってくる電話にささやくような声で出て、そして陽炎のように定時になったら帰宅をする。これが弊社の日常である。

「教室の隅っこにいた人たちをまとめて作ってみた会社」って感じの弊社の雰囲気をわたしはなかなかに気に入っていて、たぶんわたし自身もその雰囲気の中に溶け込めているのだろうなあと、まだ入って少ししかたってないけど、とても感じている。つまり、人事採用担当者は「職場の雰囲気を乱さない人間か否か」を基準とし採用を行い、わたしはその基準にうまい具合に引っかかれたということである。ははーーーーありがとうございます。社長面接で緘黙してしまった際、「かしわぎさんは海外へのボランティア経験があり~・・・」と助け舟を出してくれた佐々木人事部長。

 

でもでもでも、人間の集団というのはとてもとても面白いもので、そうはいっても「とんでもなく集団(=会社)のカラーとちがうニンゲン」というものが一定の割合存在するのが常である。弊社の弊部署は‘‘どちらかというと”そういうニンゲンの集まりで、マネージャー(=部長)を筆頭に係長・中堅社員・年の近い先輩・お局、各々が「うっす!自分たち!効率の良い仕事の仕組みを構築&監査して!金稼ぐぜ!おとなしくいつも同じような仕事の仕方にこだわってPDCA回さねえやつはクソ!!!!」と強めの姿勢で業務にあたっている。日々の自部署の業務をこなしながら、全社に向けて業務改善につぐ業務改善の企画・告示・指導・監査。それらをこなすみなさんはとんでもなくバイタリティーがあって、すごいいろいろなことを知っていて、たぶん「どこでもやっていけそう」な感じのあきらかに有能な方々だ。でもでもしかし、ここで聡いはてなの皆さんなら察してくれそうであるが、弊私が配属された弊部署は、有能だけどそのあまりのカラーの違いから、正直社内での風当たりがあーーーーーーーーーん(泣)なことになっている部署なのである。

 

そんなあーーーん(泣)な弊部署の皆様が、口をそろえて「あいつはやばい」と称賛を送るお人がいる。

 

そのお人は、わたしのデスクからみえる、真向いの島、弊社花形の主力商品を売って売って売りまくる営業部署のえらーい席に悠然と座っている。

年は多分40代中ごろ。赤ら顔で、髪の毛がめっちゃちゃんとセットしてあって、いつも高そうなスーツに身を包み、なんかすっごい高そうなギラギラの腕時計をして、すっごいとんがったあの先っぽがめっちゃどんがってる上質な靴をはいてて、体格はわりと小柄なのだけど、毎朝毎朝フロアに燦然と響き渡る挨拶をして悠々とデスクについて、大抵午前中はひたすらビジネス誌を読んで、仲の良い他部署の部長や部下&後輩と雑談してて、午後になるとふらりとどこかに消えて戻ってこない、みたいなひと。

 

競争が大好きで、バツ1なんだけど今は元スチュワーデスの奥さんがいて、いつもあっっっっっっっと驚くような大口顧客との契約を「とってきたで~~~~~」と「吉野家行ってきたで~~~~」みたいなノリで薄暗いオフィースに大きな声で報告するその人をわたしは密かに「(まるで絵に描いたようにいろいろなものを獲得していて、能力が高く、競争心と欲望に忠実な精神がとんでもなく)マッチョなマネージャー」略してMMと呼んでいる。

 

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わたしとMMがはじめて遭遇したのは、入社して1週目に行われた社内研修の席だった。

この研修では、毎日毎日、自社の組織構造の説明という体で、各部署・部門のえら~い人たちが代わる代わる「ウチはこんな仕事してるぞ」、「会社員ってのはなア、ほんとに理不尽なんだぞ!俺が若い頃はなア・・・」とお話をし、わたしたちはそれをただひたすらに聞く、ということをしていた。

えら~い人たちは「なんか人事部から新入社員に向けて話をしてくださいとか言われたけどぶっちゃけそんな話すことないわ~ど~しよ」という顔をしていたし、わたしたち新入社員は「いや~仕事内容に関してはNots Dominoに書いてあったし、正直苦労話とか今聞いても萎えるからやめてくれよ・・・・」という顔をしてしまっていて、だから正直、なんだかなあみたいな空気が研修室にはずっと蔓延してて、ここにいる人全員が「どうにかならないもんかなア」と思ってて研修室はイヤーな空気がずっと漂っていた。

 

だから、中日の水曜日のお昼休み明けに「おお!!!!!お前ら!!!!!なんかめっちゃ疲れとるな!!!!!!!!!!!」というはつらつとした声と共に研修室にMMが入って来た時、こう表現するのは適当であるのかわからないけど、MMは「誰が見てもなにかしらの魅力を持っていそうだなと思わせるオーラ」を漂わせているように見えたのだった。

 

 

 

 

PC機器の扱いが苦手なえらいひとが多い中、手早く自身のiPhoneをプロジェクターとスピーカーにつなげたMMは、お供の部下に部屋の電気を消すように指示し、なんと何も言わずにいきなり、ジャカジャカと音楽を流し始めた。

しばらくして、部屋前方のスクリーンに、白い文字が浮かび上がる。それがジャカジャカ流れてる音楽の歌詞であると気づくのに、すこしだけ時間がかかった。

 

back numberだ・・・・・・

 

新入社員の誰からともなく、さざ波のように言葉が漏れて、そのさざ波が広がっていって、そうなんだ今流れてるのはあのほら、10代に大人気のバンド(年末ちらっとみたMステ情報)のなんか曲なのか、と合点した。

 

曲が終わって電気がつけられて、意味深にしばらく溜めたあと、MMは少し真面目な表情で、わたしの隣の席に座っていた営業職の男の子に話しかけた。

 

「君、俺がなんで今この曲をかけたと思う?」

 

男の子はしばらくあっけにとられた顔をした後、「わからないです」と答えた。わたしもわからないです、とおもっていると、MMはしたりといった表情になって、言った。

 

「特に理由はない!上の娘からback number教えてもらってな、好きで聞きたかったからや!」

 

MMの横で苦笑いをするお供の部下の顔とご機嫌そうなMMの表情を交互にみて、わたしのけだるげな眠気と室内の重苦しい空気が一気にふっとんでいったのを感じた。

 

 

 

 

 

 

MMの研修はとても型破りだった。

 

「おまえら正直この研修ダルイやろ?俺もぶっちゃけ眠いねん。水曜やし昼明けやし。それにどうせ配属された先で各々先輩なり上司なりに自分の業務について教えてもらうだろうから、うん、新人の内は組織がどうこうなってるかを理解することより、テキトーに先輩の話を聞いて言われた仕事をちゃんとやってればええんや。だからな、俺は今回テキトーに話しするから、メモとか取らんでええよ。」

 

声は通るけど穏やかな表情で、ぶっちゃけた話をする語り口は一瞬、「気さくでフランクな良いおじさん」という風に見受けられたけど、メモとか取らんでええよ、の語調がやや強い気がして、わたしはすっとメモをカバンの中にしまった。たぶんこの人は、自分より立場が低いニンゲンが自分の言ったとおりにならないと機嫌が悪くなりそうなニンゲンっぽいなあとおもったからだ。

 

「まあ、そうはいっても、後ろに人事部の方おるし、最初は簡単に俺の自己紹介だけさせてほしいわ」

 

細い目がじろり、とわたしたちの後ろに座ってる人事部チーフをとらえて、わたしはその目の鋭さにうっとなってしまったけど、すぐさまMMはこちらに背を向けてホワイトボードに終わりかけの水性ペンで大きく文字を書きなぐっていったので、少しほっとした。

 

書きなぐった大きな文字というのはMMのフルネームで、振り返ったMMは簡潔にフルネームと担当自部署名とその説明を行い、最後はまあそんなわけでこれからよろしくな、と〆た。口から流れるように言葉が出てくる様子に「すっ、すげーーーーーーーー」となっていると、また間髪言わずにMMは部下に声をかけた。

 

声をかけられた部下はそそくさと私たちに白いA4の紙を配り、その横でMMはホワイトボードに何桁かの数字を書きなぐっていく。

 

「一体何の数字なのだろう」

室内にいるニンゲン全員がおそらくそう考えていた。アオキか青山で大量生産されたリクルートスーツに身を包んだわたしたちひよっこは、皆一様に不思議そうな顔をして、じっとMMを見つめていた。室内は完全に「MM劇場」が出来上がっていて、わたしは不思議そうな表情をしながら、なんだか本当にこの人は怖い人だな、とびくびくしていた。


「この数字な、何かわかるか?」 











つづく